(2011年8月24日)

森とむらの会の解散に際しての「提言」

 財団法人森とむらの会は自然文化誌研究会と親しい団体でした。この度、財団を解散するにあたって、森とむらの未来に対して提言をまとめて、出版しました。自然文化誌研究会は森とむらの会の志を受け継ぎますので、下記に提言部分を載せます。

木俣美樹男:東京学芸大学環境教育研究センター


社会的共通資本としての森とむらの再生・活性化に関する提言
~森林文化社会の再構築~



 (財)森とむらの会は、およそ30年に亘って森林、林業、山村等の問題について調査研究し、提言を行う等積極的な活動を行ってきた。この間、林業生産活動の低迷等により、山村の過疎化が一層進展するとともに、手入れの行き届かない放置林が累増し、森林の荒廃が顕著になった。
 一方では、地球環境問題等から森林の重要性が再認識されるとともに、人工林の成熟化に伴って国産材利用の気運が高まっており、今こそ、改めて森林、林業、山村の今後のあり方を総体的に考えることが必要になっている。
 このような中、3月11日に起きた未曾有の東日本大震災は、技術の限界性を顕在化させ、効率化社会からリスク分散型社会への転換の必要性を認識させるとともに、真の持続可能な社会とは何かを問いかけている。
 以上のことを踏まえ、(財)森とむらの会では、その活動を終わるに当たり、社会的共通資本としての森とむらに関する調査研究委員会を設け、“社会的共通資本”に視点を置き、これまでの活動成果を総括し、今後の森林、林業、山村のあり方について取りまとめたので、下記のとおり提言する。
 提言が、それぞれの関係者に真摯に受け止められ、これからの新たな展開の一助となることを期待する。


[記]


◆ 基本的考え方 
 日本人は、これまで森林の持つ特性を活かし、森林を荒廃させずに利用し続ける文化を形成し、日常生活はもとより、その神髄を芸術や信仰等の領域まで深めてきた。
 しかし、経済効率性の過度な追求のもと展開されてきたグローバル社会の中で、我が国の森林は荒廃し、精神性まで高められた森林と人とのつながりは希薄化し、日本人の生活は、自然との関係性やその中で育まれてきた豊かな文化性を失ってきた。
 従って、持続可能な社会の構築やそこで営まれるべき心満ち足りた人間的生活のためには、多様な価値を有する森林の重要性を再認識し、森とむらを、社会の基礎を構成するいわば社会的共通資本として捉え、その視点から、森林、林業、山村等のあり方を総体的に見直し、森林と山村を活性化し、新しい森林文化社会を再構築することが必要である。
 この場合、以下に掲げる各項目を個別に実現するだけでは十分ではなく、地域の実情に即応して森とむらの社会的共通資本としての価値を高めるため、総合的な計画の下にソフト、ハードを含め各種の活動が有機的に組み合わされ相乗的な効果を発揮するよう関係者が努力することが必要である。


1 多様な森林の維持造成
 森林の多様な価値は、災害の危険、動植物の生息、風致の保護等森林そのものと、置かれた場所等によって異なっており、それぞれの森林毎にその価値の発揮に見合った多様性を確保していかなければならない。この場合、従来よりも長伐期化したり、非皆伐化したりしていくことが必要である。 
 このため、多様な森づくりが可能となるよう、助成の充実、運用の弾力化とともに、相続税等の特例的取り扱い等これまでの制度の点検と見直しを行うことが必要である。

2 住民参加型森林計画の作成
 森林と人との関係を見直し、多様な森林整備をきめ細やかに進めていくためには、森林所有者等が、自らの住む地区の森林をどのようにしていくかを考えるとともに、森林計画の作成に積極的に参加できることが必要である。
 このため、住民が参加しうる範囲で、住民が主体となって自律的に作る森林計画(地区森林計画)を森林計画制度の中に位置づけ、推進することが必要である。このことは、現在の制度においても、森林経営計画として認定することにより対応しうる可能性がある。

3 森林管理を効率的に行いうる基盤の構築
 「森林・林業再生プラン」では、小規模分散的な森林所有構造に対し、森林の経営、管理を効率的に行いうるよう森林施業の集約化、団地化が推進されようとしているが、所有の現状等からその進展が危惧されるとともに、実行毎の同意取り付けや結果の所有者別精算等実際の運営は所有者に応じて複雑に対応せざるを得ない。
 このため、集約化、団地化をより効果的に進めるため、その進捗状況を勘案しつつも、所有権の交換、分合、買取(公有林化)等区画整理的手法を導入する「(仮称)林地区画制度」の制度化を行うことが必要である。また、森林の管理・経営の基盤の構築として路網の整備が重要であることから、その一層の推進を図ることが必要である。

4 多様な資源の有効活用とクラスター型(房方)産業構造の育成
 山村は多様な資源に恵まれているが、規模が小さく、大量、かつ、均一商品が求められる現在の流通形態では、商品化が困難なものが多い。また、木材からは製材のほか、端材はチップに、樹皮はバークに、葉や樹液さえ芳香剤等に利用される等、多種の商品が連関して生産される。
 このため、商品化に当たっては、資源の特徴を活かすとともに、それらの組み合わせや連関性に配慮することにより、山村ならではの商品化を図ることが必要である。さらには、いわばクラスター型といえる産業構造とその広がりを作り出すとともに、この具体化に当たっては、新しいアイデアや行動力、経営センスがあるNPOや都市住民等も巻き込んだ多様な主体の取り組みを推進することが必要である。

5 地域内資源活用型山村生活の推奨
 地域資源の産業化に当たっては、需要者として都市住民が想定されるが、まず、山村自体が地域資源を有効に活用することが必要である。例えば、木造りの街並みや地場の名物料理等は山村らしさや住民の愛着の醸成になるとともに、都市住民へのアピールにもつながる。これまでは都市生活の利便性等を取り入れることが課題だったが、今後は、利便性等を求めつつも、地域の資源や魅力を認識し、それを活かしていくことを併せ都市と異なる山村なりの生活を発展させていく必要がある。
 このため、地域を総点検するとともに、住民参加のもと、行動計画を具体化することが必要である。

6 自立型、自給型社会の構築
 山村のこれからの展開に当たっては、できるだけ都市に依存する形ではなく山村で自立、自給するという形で検討することが重要である。そのことが、地域の資源等の見直しや掘り起こしにつながるし、また、そのことを意識化しないと山村自体が都市に埋没する怖れがある。例えば、木材供給については、需要の大型化において量のまとまりと安定化が求められているが、一方では、そのことにより地場需要を中心とする山村の中小製材工場の材の手当てができなくなる可能性があり、山村において、供給側をとりまとめ、大規模工場と対峙し、大規模工場と地元の工場への供給を調整できるコーディネーターが必要になる。また、エネルギーについては、バイオマスや小水力、太陽光等を組み合わせれば自給できる可能性があり、必ずしも既存電力会社の大規模発電に依存する必要はない。これらのエネルギーは、中小規模需要に向いており、また、山村が低炭素社会、循環型社会のパイオニア的意味を持つ。
 以上のような活動を円滑に進めるためには、特区制度を始め、それぞれの活動に応じた必要な制度的枠組みを作ることが必要である。

7 山村ワークシェリング
 林業では雇用労働化、単一業務就労化の傾向を強めている。一方、山村では、山菜の採取や農業等多様な仕事をこなすことが必要であるとともに、そのことが山村に住む醍醐味にもなっている。これらの仕事は断続的で規模は小さく、収入としては安定せず、かつ、自家用に留まる仕事も少なくない。
 このため、雇用労働と山村らしい多様な仕事とを調整し、全体として生計費を確保するよう、就労形態を弾力化する山村ワークシェリングを実施することが必要である。そのことに伴う雇用制度や社会保険制度等において、不利な取り扱いが無いように配慮すべきである。

8 山村まるごと環境文化大学化と都市住民の参加
 山村の社会と自然環境には、持続可能な未来につながるヒントが豊富にあり、自然の中で山村の生業を伝統的知識体系として学び、学校で伝達された科学的知識体系と統合することによって、持続可能な社会づくりのための新しい価値観を形成し、生きる力を鍛錬することが必要である。
 山村民の働き場と都市民の学び場として山村をまるごと環境文化大学として活用することが必要である。山村住民は縄文文化の継承者としての誇りを取り戻し、心広く都市民を受け入れ、都市住民は忙しさにかまけて便利さに溺れずに、自ら暮らす技術を山村で学ぶ。そのことにより、両民相携えて、流域の森、水、生物文化多様性を保全し、真の持続可能な社会を創造することが可能となる。
 このため、このことを具体化するためには、山村住民の意識改革と山村における窓口の整理、山村における受け入れ態勢の整備、山村間、山村と都市間のネットワークの形成を図るとともに、それらを自主的に運営するNPO等の育成を図る必要がある。立ち上がりにおける助成を始め、寄付の優遇措置の適用拡大等経済基盤の確保が可能となる措置がとられることが必要である。

9 山村で生活できる総合的な条件の整備
 山村に住みたいと希望する者が心安く生活するためには、生計費の確保はもとより、道路、交通・情報通信、上下水道、電力・ガス等のインフラストラクチャーおよび教育、医療、金融等の制度資本が総合的に整備される必要がある。このうち、インフラストラクチャーについては、これまでの努力により向上してきているが、教育、医療、金融等については後退してきているものもあり、新しい対策が必要になっている。例えば、高校や大学への進学については、経済的負担等が益々大きくなってきており、授業料や下宿料の助成等を行うことが必要である。
 このため、山村において生活できる条件を分析し、総合的な条件の整備を図るべきであり、今後の価値観の多様化とリスク分散型社会に対応していくためには、山村が都市住民から選択される新しい居住の場にしていくことが必要である。